フロントエンドの開発に用いられる人気のフレームワーク(ライブラリ)に、ReactとVue.jsおよびAngularがあります。これらフレームワークのフロントエンド開発における役割と、3つの違いについて簡単にご紹介します。
データバインディングとコンポーネント化
フレームワークReactとVue.jsおよびAngularは、いずれもHTMLの要素(DOM)をデータと関連づけて(データバインディング)、データの変化に応じた動的なページ構成を行います。
DOMの操作には、かつてはjQueryが用いられました(今だに、使われていることは少なくはないでしょう)。けれど、モダンブラウザが対応するECMAScript 2015(ECMAScript 6)以降でしたら、標準JavaScriptでもDOMの操作は難しくありません。
動的にページを構成するコンテンツの典型は、シングルページアプリケーション(SPA)です。jQueryや標準JavaScriptで動的にDOMを組み立てようとすれば、新たなデータを処理したとき、変更すべきDOMの現状を調べたうえで、つぎの状態がどうなればよいか決め、DOM構成をそのとおりに変更するといった流れになるでしょう。データの数が多くなると、構成の組み合わせはさらに増えます。コードを注意して書かないと、パフォーマンスが出なかったり、ブラウザごとに挙動の違いがあったりして、DOMをうまく扱うのは大変です。
3つのフレームワークは、DOMをテンプレートとして定め、データとバインディングします。そして、データに応じてDOMの構成をどうするかは、テンプレートに書き加えるのです。つまり、DOMの構成がデータの処理から切り離されます。さらに、フレームワークが変更すべきDOMだけを探し、差分をレンダリングすることで、最適化します。
そして、アプリケーションの機能は小分けして、それぞれのデータの処理とテンプレートをまとめたものがコンポーネントです。小さなコンポーネントをいくつも組み合わせて、ひとつのシステムがつくられます。コードはコンポーネントごとに確かめればよいので、読みやすく、メンテナンスもしやすくなるのです。
3つのフレームワークは、つぎのような機能を提供します。
-
状態とビューの同期
状態を示すデータは、ビューとバインディングされて同期します。
-
テンプレート機能
状態に応じたビューを予め定めるのがテンプレートです。
-
再利用できるコンポーネント
機能ごとにコンポーネントを分けることで再利用がしやすくなります。
3つのフレームワークの特徴
前項では、3つのフレームワークに共通する役割と仕組みについてご説明しました。ここからは、3つの特徴や違いを確かめましょう。以下の表にまとめてみました。わかりやすく比べられるように、細かなことははしょって、大雑把に書いてあるところもありますので、ご了承ください。
React | Vue | Angular | |
---|---|---|---|
開発元 | Facebook + コミュニティ | コミュニティ主体 | Google + コミュニティ |
初期リリース年 | 2013/07 | 2013/12 | 2010/10 (Angular.js) 2016/09 (Angular 2) |
最新バージョン | v16.8.6 | v2.6.10 | 7.2.13 |
機能 | ユーザーインタフェース | ユーザーインタフェース | フルスタック |
ルーティング | React Router | Vue Router | 標準装備 |
適切な開発規模 | 小〜大 | 小〜中 | 大 |
エコシステム | 最大 | 中 + 日本語あり | 大 |
学習コスト | 中 | やや低~中 | 高 |
コードを書く際の特徴 | JSX | 単一コンポーネントファイル | TypeScript/RxJS |
React
Reactはユーザーインタフェースをつくるためのライブラリです。ルーティングなど他の機能は、別のライブラリで補わなければなりません。そのための情報やエコシステムは、3つの中ではもっとも豊富です。控えめな規模の開発で採り入れて、あとから拡大していく進め方もできます。仮想DOMが活かされ、機能的にも高い水準です。React Nativeなど新たな技術への展開も積極的に進め、スタートが早いとはいえ、バージョンはもう少しでv17になろうとしています。
学習コストはそれほど高くありません。規模を抑えて始めれば、ハードルが下がるでしょう。学習を進めるにあたっても、豊富な情報とエコシステムが大いに役立つはずです。設計やコードの作法はしっかりしつつ、柔軟さもかね備えます。大規模の開発にも耐え得る堅牢さと厳密さを備え、チーム開発も進めやすいでしょう。少し毛色が変わっているのは、JSXというコードの書き方です。
JSXは、HTMLタグをJavaScriptコードの中にじかに書く構文です。つまり、テンプレートがJavaScriptコードで定められることになります。つぎのコードは、ひな形から引用しました。はじめは違和感があるかもしれません。これは、マークアップとViewのロジックは密であるべきという開発者の考えにもとづいているとのことです(「React.jsのComponentについて」「Separation of concerns?」参照)。
ReactDOM.render(
<h1>Hello, world!</h1>,
document.getElementById('root')
);
なお、JSXはVueでも使えます。けれど、Reactでは構文が原則JSXとされているのです。さらに、CSSについてもライブラリを用いてJavaScriptの中に書く「CSS-in-JS」というスタイルが提唱されています(「React: CSS in JS」参照)。
Vue
Vueもユーザーインタフェースをつくるためのフレームワークです。Reactと同じく、ルーティングなど他の機能は、別のライブラリで補います。Vueを特徴づけるのは、小さく始められることです。あとから機能を加えながら、サイトを大きくしていけます。あるいは、jQueryが使われているサイトを、少しずつVueに移行するといったことも可能です。
情報やエコシステムは、他のふたつと比べると少な目です。けれども、公式サイトに日本語版があります。更新も原文の英語サイトと時間差はほとんどありません。最新の日本語情報に絞ってみるなら、他のフレームワークにそれほど見劣りはしないでしょう。
学習コストは高くありません。小さく始めて、少しずつ進めることで、段階的に学べます。ただ、公式サイトは始めやすさを重視しているらしく、簡易な構文のサンプルが多く、本格的な開発のためのスタイルは改めて考える必要がありそうです。つぎのコードは、単一コンポーネントファイル(VUE)のひな形からの引用です。テンプレートとJavaScriptコードそれにスタイルシートが、ひとつのコンポーネントのファイルとしてまとめられています。
<template>
<div id="app">
<img alt="Vue logo" src="./assets/logo.png">
<HelloWorld msg="Welcome to Your Vue.js App"/>
</div>
</template>
<script>
import HelloWorld from './components/HelloWorld.vue'
export default {
name: 'app',
components: {
HelloWorld
}
}
</script>
<style>
/* ...[略]... */
</style>
Angular
Angularの特徴は、何といってもフルスタック「全部入り」ということです。ルーティングを含め、webアプリケーションに必要な機能すべてが備わっています。開発の規模としては、大きなプロジェクト向きです。はじめからしっかりと設計して、Angular流で進めなければなりません。ちょっと試すという使い方は難しく、気合いを入れて取り組む必要があります。堅牢さと厳密さは3つの中でもっとも高いでしょう。
学習に費やす手間と時間は多くかかるものの、「全部」できるようになることを考えれば、コストパフォーマンスが悪いわけではありません。「やはりやめた」というときの埋没費用が高くなるというだけです。関連ライブラリやツール、情報などのエコシステムは豊かといえます。
コードはTypeScript(TS)で書き、テンプレート(HTML)とスタイルシート(CSS)はそれぞれ別ファイルです。分業はしやすいかもしれません。つぎのコードは、ひな形のTypeScriptファイルから引用しました。デコレータ関数(@
)を除けば、ECMAScript 2015と差はありません。
import { BrowserModule } from '@angular/platform-browser';
import { NgModule } from '@angular/core';
import { AppComponent } from './app.component';
@NgModule({
declarations: [
AppComponent
],
imports: [
BrowserModule
],
providers: [],
bootstrap: [AppComponent]
})
export class AppModule { }
なお、TypeScriptはReactやVueの開発でも、設定を加えて使うことができます。Angularでは、TypeScriptの使用が原則とされているということです。
3つのフレームワークの特徴についてご紹介しました。それぞれに異なった長所があり、それが裏返すと短所に結びついたりもします。一般的に、これがもっとも優れたフレームワークだといえるものはありません。プロジェクトやチーム、あるいは会社における開発の進め方や重視する機能などから、適した技術を選ぶと考えるのがよいでしょう。
gumiはReactを採用
gumiでは3つのフレームワークのうち、Reactを採用しました。おもな理由はつぎのとおりです。
豊富な情報とエコシステム
情報や関連ライブラリ、ツールなどがもっとも豊富です。公式サイトの情報も、Vueが始めやすさを前面に出しているのに比べ、開発者に対して推奨するスタイルを明らかにしています。チームで大きなアプリケーションを開発する場合にも、体制を整えやすいでしょう。Angularのように「全部入り」でないため、連携するライブラリは選ばなければなりません。そのときにも、情報とライブラリおよびツールの多さは大きな強みです。
開発規模や導入が柔軟
開発の規模は小さめのものから大きいものまで柔軟に対応できます。Angularは小規模なサービスで使うにはオーバースペックになりがちです。Reactは小さな規模ではじめて、あとから拡大することも難しくありません。さらに、大規模なアプリケーションでも支えられる設計ができるのは、Vueと比べた強みです。
TypeScriptやRxJSなどをはじめから覚えなければならないAngularと比べて、小さな学習コストでスタートし、必要に応じて技術やツールを加えていける柔軟さがReactにはあります。JSXに違和感をもつ開発者は少なくありません。けれど、これも多分に慣れの要素が大きいでしょう。「CSS-in-JS」も取り入れれば、コンポーネントをひとつのモジュールにまとめられます。
大規模開発に耐える堅牢さ
大規模開発にかぎれば、Angularに分があるでしょう。けれど、Reactは、小さなアプリケーションでもつくりやすく、大規模開発にも耐えうる堅牢な設計が可能です。また「全部入り」でないことは、目的によってライブラリが選べるという利点にもなります。堅牢さと柔軟さのバランスを評価しました。
3つのフレームワークの評価を数字で比べる
3つのフレームワークの評価を数字で比べてみましょう。bestofjs.org「2018 JavaScript Rising Stars」「Front-end Frameworks」では、Vueが第1位でした。
GitHubのStar数推移を見てみると、Vueの伸びが大きく、最近Reactを抜きました。
bestofjs.org「UI Framework」でも、 Vueが一番人気です。けれど、トレンドではReactの方が注目されています。
Stack Overflowの「Developer Survey Results 2019」では、「Most Popular Technologies」として「Web Frameworks」についての調査がありました。React.jsはjQueryにつぐ第2位で、第3位のAngular/Angular.jsを抑えています。Vueは第7位です。
順位 | 名前 | パーセンテージ |
---|---|---|
1 | jQuery | 48.7% |
2 | React.js | 31.3% |
3 | Angular/Angular.js | 30.7% |
さらに、Most Loved, Dreaded, and Wanted Web Frameworksの「Wanted」でReactが第1位に選ばれました。開発者の期待が高いことをうかがわせます(なお、「Loved」でもReactが第1位でVue.jsは第2位でした。Angular/Angular.jsは第9位と順位を下げます)。
順位 | 名前 | パーセンテージ |
---|---|---|
1 | React.js | 21.5% |
2 | Vue.js | 16.1% |
3 | Angular/Angular.js | 12.2% |
npm trendsのダウンロード数はReactがトップです。
もうひとつ、パフォーマンスのテスト結果をご紹介します。「エンジニア向けのマイクロインタラクション入門」の「パフォーマンス比較」では、メモリ使用量と描画性能ともにReactがもっとも優れていたそうです。
なお、第69回 HTML5とか勉強会「UIフレームワーク最前線」でパネルディスカッション「Angular, Vue.js, Reactのコントリビューターたちが語る、JavaScriptフレームワーク開発の最前線」が行われました。また違った視点から、3つのフレームワークを評価することができるでしょう。
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